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相続で一人に全部遺産が渡るケースについて

1 一人で全ての遺産を相続するケース

まず、被相続人の遺産を相続するケースは、主に以下の場合となります。

(1) 法定相続人が一人しかいない場合

法定相続人となれるのは、被相続人の配偶者、子ども、親および兄弟姉妹となります。
少子化が進んでいる現代では、例えば、被相続人の配偶者がすでに他界しており、その子どもが一人しかいないといったケースは珍しくありません。
このような場合には、法定相続人が子ども一人となりますので、子ども一人で全部の遺産を相続(単独相続)することになります。

(2) 他の相続人が全員相続放棄、廃除・欠格事由がある場合

相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったものと処理されます。
そのため、同順位の法定相続人が複数人いたとしても、一人を除いて他の相続人全員が相続放棄をした場合には、その相続人一人が全部の遺産を相続することになります。

また、相続人の廃除とは、遺留分を有する推定相続人(現状のままで相続が開始した場合に相続人となるべき者)が、被相続人に虐待したり、重大な侮辱を加えたときなどの場合に、被相続人がその推定相続人の相続権を失わせるために、廃除を家庭裁判所に請求したり、遺言で廃除することを申し立てたりすることができる制度のことを言います。
その結果、廃除された推定相続人は、相続人である地位を失うことになります。

そして、相続欠格とは、相続人が被相続人を殺害したり、詐欺または強迫によって被相続人に相続に関する遺言をさせたりした場合には、その相続人は当然に相続人である地位を失うという制度のことを言います。
相続欠格の場合には、廃除と異なり、何らの手続きは不要であり、要件に当てはまりさえすれば、自動的に相続人である地位が失われます。

このように、一人の相続人を除いて、他の相続人全員が相続放棄をしたり、廃除されたり、あるいは、他の相続人に相続欠格事由がある場合には、一人の相続人が全部の遺産を相続することになります。

ただし、廃除された推定相続人や相続欠格事由がある相続人に子どもがいる場合には、その子どもが代襲相続人となるので、この場合には一人の相続人が全部の遺産を相続することにはなりません。
なお、相続放棄の場合には、代襲相続は起こりません。

(3) 遺言書に一人に全て相続させる旨の指定がある場合

被相続人が、特定の一人だけに全ての遺産を相続させる旨の遺言書を作成していた場合には、指定された人が反対の意思表示をしない限り、その人のみが全部の遺産を相続することになります。

ただし、このような遺言書が存在する場合、法定相続人が本来相続できる財産を侵害することになってしまうため、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人は、遺言書で指定された人に対して、遺留分侵害額請求をすることができます。
そのため、遺留分侵害額請求をされた場合には、一部の遺産を分与しなくてはならない場合があるため、必ずしも一人が全部の遺産を相続することができるとは限りません。

(4) 遺産分割協議により単独相続することの合意をした場合

相続人が複数人いる場合であっても、相続人全員での話し合いの結果、一人に全部の遺産を相続させる旨の合意をした場合には、一人の相続人が全部の遺産を相続することができます。

2 単独相続の注意点

以上のように、相続人が複数いる場合に、他の相続人が相続放棄をしない場合には、遺産分割協議をしなければ、単独相続をすることができません。
もっとも、一口に遺産分割協議をするといっても、何点か注意点があります。

(1) 全員の合意が必要であること

遺産分割協議は、あくまで相続人間での話し合いとなるため、相続人全員で意見が一致しなければなりません。
例えば、被相続人が生前、長男が後を継ぐべき、といったことを話していたとしても、そのような内容の遺言書がなく、これに反対する相続人がいる場合には、長男が単独相続をすることはできません。
また、相続人の中にはお金に困っていて、少しでも多くのお金が欲しい、という人がいる場合にも、遺産分割協議が難航するでしょう。
さらには、兄弟間で不仲であったり、音信不通となっている相続人がいる場合には、そもそも遺産分割協議をすること自体困難です。

(2) 相続人および財産の調査が必要

遺産分割協議は相続人全員で行わなければならず、一人でも協議に参加していない人がいる場合には、その遺産分割協議は無効になります。
まれに、被相続人の戸籍をたどってみたら前妻との間に子どもがいることがわかった、という事例も見受けられます。
そのため、遺産分割協議をするに先立ち、必ず、被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍類と相続人の現在の戸籍を取得するようにしましょう。

また、遺産分割協議を行ったものの、後から相続財産が見つかった場合には、特別の取り決めがない限り、その相続財産は遺産分割協議の対象外となります。
そのため、もう一度その相続財産を加えた内容で、遺産分割協議を行う必要があります。
特に、被相続人に借金があったことが後から判明した場合には、一度取り決めた内容を撤回したいと考える人もいるでしょう。

このように、遺産分割協議をする前には、相続人の範囲を確定し、相続財産の調査を入念に行う必要があります。

(3) 遺産分割協議書の作成

遺産分割協議は、ただ相続人間で話し合うだけでなく、遺産分割協議書を作る必要があります。
相続不動産の登記をするためには、法務局に申請する必要がありますが、遺産分割協議書がなければ、遺産分割が成立したのかわからないため、登記の申請を受け付けてくれません。
また、被相続人の預貯金口座を解約する場合についても、同様に、遺産分割協議書がなければ、金融機関は口座の解約に応じてくれません。
このように、法務局や金融機関といった外部への証明のためには、遺産分割協議書の作成が必須となります。

3 単独相続の場合の遺産分割協議書の内容

(1) 最低限必要な内容

まず、遺産分割協議書を作成するにあたっては、分割内容の如何を問わず、次の内容の記載が必須となります。
・被相続人の氏名、生年月日、死亡日、最後の住所地、最後の本籍地
・相続人全員の氏名
・「相続人全員は、協議により、被相続人の遺産を次のとおり分割する」、「相続人全員の協議により、以下のとおり、遺産分割することの合意をした。」などといった相続人全員の間で協議が成立したことを示す文言
・相続人全員の署名・捺印
・遺産分割協議書作成日

(2) 単独相続の場合の内容

例えば、Aさんが単独相続をする場合には、「Aが被相続人の財産をすべて相続する。」という文言にするのが簡便です。

もっとも、相続の全容を明らかにするため、「Aは以下の遺産を相続する。」という文言とし、相続財産を一つ一つ列挙して記載する方法もあります。
この場合には、疑義がないように特定する必要があるため、不動産については登記簿謄本のとおりに、預貯金については支店名や口座番号も含めて記載しなければなりません。
また、単独相続の場合、単独で相続する者が借金も単独で負担することになると思われるため、借金についても負担する旨の記載が必要です。
なお、この記載内容の場合、遺産分割協議書作成の段階で発見されていなかった遺産や借金があれば記載漏れとなるため、「本遺産分割協議書に記載のない遺産については、別途協議する。」といった文言を入れておきましょう。

4 弁護士に相談すべきケース

(1) 疎遠な相続人や行方不明の相続人がいる場合

疎遠な相続人や連絡が取れない相続人は、遺産に興味がないことから、単独相続に協力してくれる場合があります。
もっとも、これらの相続人との間で遺産分割協議をすること自体、心理的なハードルが高いことかと思われます。
このような相続人との間で遺産分割協議をしなければならない場合には、弁護士を使って協議をすることをお勧めいたします。

(2) 他の相続人が納得しない場合

また、他の相続人の中に、単独相続とすることに納得しない方がいる場合、遺産分割協議は難航します。
もっとも、そのような相続人の話をよくよく聞いてみると、金銭面の問題で納得しないのではなく、単に感情的になっているだけの場合や、相続とは関係ない事情を一緒くたにしているだけの場合もあります。
このような場合には、第三者であり、かつ、専門家である弁護士を介入させることで、冷静になり話し合いがスムーズになる場合があります。

(3) 遺産分割協議書の作成方法がわからない場合

上記のように、遺産分割協議書を作成するにあたっては、絶対に盛り込まなければならない内容が何点かありますが、唯一絶対の書式があるわけではありません。
最近では、インターネットを検索すれば、書式が掲載されているサイトも散見されますが、これらはあくまでテンプレートです。
それぞれの相続における事情や遺産内容などによって、アレンジをする必要があります(弁護士としても、遺産分割協議書を作成するにあたっては、事案ごとにオーダーメイドで作成しています)。
自分で調べて遺産分割協議書を作成したとしても、不備があることで預貯金の解約や不動産の登記をすることができなければ、何も意味がない書類となってしまいます。
そのため、法的に意味のある遺産分割協議書を確実に作成するのであれば、弁護士に相談・依頼することをお勧めします。

(弁護士・下山慧)

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