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特定の相続人に財産を渡したくない場合の対策

人が亡くなったとき、必ず問題になるのが、相続です。
近年では、自分に何かあったときのために、あらかじめ自分の相続の準備をしておくことも一般的です。
法律の定めによると、亡くなった人(被相続人といいます。)の家族構成に応じて、その人の配偶者・子・親・兄弟姉妹が、相続人として、亡くなった人の財産を相続することになります。
これは、法律上認められた権利ですから、たとえ自分の財産のことであっても、誰かの相続権を一方的に奪うということはできません。
ですが、親族といっても仲が良いとは限りませんし、仲の悪い親族には相続させたくないと考えるのも自然なことです。
そこで、この記事では、特定の相続人には自分の財産を渡したくないという場合に、考えられる対策について解説していきます。

1 欠格事由

まず、法律上、相続をすることが禁止されている場合があります。
これにあたる人については、こちらで特に手続きをしなくても、相続をすることができなくなります。
もっとも、これにあたるのは、以下のように極端な場合に限られています。
・被相続人や他の相続人を殺害するか、殺害しようとして、刑罰を科された人
・被相続人が殺害されたのに告発・告訴しなかった人
・詐欺または脅迫をして、遺言をしたり変えたりすることを妨害した人
・詐欺または脅迫をして遺言をさせたり変えさせたりした人
・嘘の遺言書を作ったり、本物の遺言書を書き替えたり捨てたりした人
ですから、特定の親族に財産を渡さないためには、やはり何らかの対応をとる必要があります。

2 廃除

特定の親族が相続人にならないようにするための、「廃除」という手続きがあります。
これは、生きているうちに家庭裁判所に申し立てたり、その人を廃除するという遺言書を作成したりする手続きになります。
ただし、どんな人に対しても廃除ができるというわけではなく、こちらも法律上の要件が決まっています。
それは、
・被相続人に対する虐待をした人
・被相続人に対する重大な侮辱をした人
・その他の著しい非行があった人
に限られます。
さらに、申立てを受けた裁判所は、廃除を認めてよいかどうかを慎重に判断する傾向にあります。
そのため、実際に廃除が認められる例は多くありません。

3 遺言

以上のように、特定の人が相続人にならないようにすることのハードルは高いです。
そこで取り得る対策として、遺言をすることで、他の相続人にすべての財産が渡るようにしておくことが考えられます。
具体的な手続きとしては、遺言書を作成し、各相続人の相続分や遺産分割の方法を記載することになります。

4 遺贈・死因贈与

唯一の相続人に財産を渡したくない場合など、相続人以外に財産を渡す必要があるときは、遺贈や死因贈与によって財産を渡すことが考えられます。
具体的な手続きとして、遺贈の場合、遺贈をするという記載のある遺言書を作成します。
死因贈与の場合は、遺言と違い、贈与をする人と受ける人の間で、贈与をする人が亡くなったら財産を贈与するという契約を締結することになります。
したがって、そのような内容が記載され、それぞれの署名・押印のある契約書(死因贈与契約書)を作成することになります。

5 注意点:遺留分について

遺言や遺贈・死因贈与により、特定の相続人に財産が渡ることを一旦は防ぐことができます。
しかし、相続財産を渡したくない相手が配偶者・子・親の場合、その相手は遺留分という権利を持ちます。
これは、配偶者・親・子が遺言などによって財産を相続できなかった場合に、遺言などで財産を受け取った人に対して、一定の金銭の支払いを請求する権利です。
その金額は、法定相続分の2分の1(親の場合は3分の1)に相当する額になるので、何も対策を取らないよりは、その人に渡る財産を減らすことができます。
また、遺留分は、その人が相続できることを知ってから1年以内に請求をしないと消滅することになっています。
ですので、遺言などで財産をもらえなかった相続人が請求をしてこなければ、その人に全く財産を渡さなくて済む可能性もあります。
ただし、遺留分という権利は調べればすぐ分かりますし、法律家に相談すれば間違いなく教えられますから、実際に請求してこない可能性が高いとはいえません。
そして、請求があった場合には、財産を受け取った人が、これに対応しなければなりません。
これは、例えば財産の額に争いがある場合など、複雑な法的紛争に発展するおそれもあります。

6 遺留分の請求を防ぐために

法的紛争を起こさせないという観点からは、財産を渡したくない特定の相続人に対しても、遺留分程度の財産は渡るように遺言書を作成しておくのが無難と言えます。
おおむね遺留分と同じ額の財産が渡っていれば、その人が遺留分を請求してくる可能性は低く、実際に請求してもほとんど認められないことになります。
また、どのような財産を渡すかは遺言をする人が自由に決めることができます。

7 まとめ

以上のように、欠格事由や廃除によって相続をさせないことは難しいので、特定の相続人に財産を渡さないためには、遺言書や遺贈・死因贈与によって対策をとらなければならない場合が多いです。
その際、遺留分という権利に注意する必要があります。
自分の死後に法的紛争を遺さないためには、財産を渡したくない相続人に対しても遺留分程度の財産を遺す遺言書を作成することをお勧めします。

(弁護士・神琢磨)

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