相続手続は何年以内?相続に関する各手続の期限について弁護士が解説
相続手続の中には、期限のある手続と、期限のない手続があります。
今回のコラムでは、相続に関する各手続について、期限の有無と手続内容により異なる期限をご説明させていただきます。
1 期限のある相続手続
期限のある相続手続は、主に以下のとおりです。
・死亡届、火葬許可申請書(死亡の事実を知った日から7日以内)
・年金の受給停止(厚生年金・共済年金は死亡から10日以内、国民年金は死亡から14日以内)
・健康保険資格の喪失届(社会保険は死亡から5日以内、国民健康保険は死亡から14日以内)
・住民票の世帯主の変更(死亡から14日以内)
・相続方法の選択(死亡の事実を知った時から3か月以内)
・被相続人の準確定申告(死亡の事実を知った日の翌日から4か月以内)
・相続税の申告、納付(死亡の事実を知った日の翌日から10か月以内)
・遺留分侵害額請求(相続開始及び遺留分が侵害されていると知った日から1年以内)
・年金の死亡一時金の受取請求(死亡の翌日から2年以内)
・生命保険の受領(死亡の翌日から3年以内)
・相続税の還付請求(死亡の事実を知った日の翌日から5年10か月以内)
以下、特に留意すべき手続について、個別にご説明させていただきます。
(1) 相続方法の選択について
相続には、以下の3つの相続方法があります。
・相続放棄
・限定承認
・単純承認
相続放棄とは、被相続人が財産よりも多くの借金を残して亡くなった場合などに、“財産も借金も、どちらも引き継がないと宣言すること”です。
相続放棄を行う場合には、相続人は相続開始を知ってから3か月以内(熟慮期間といいます。)に、管轄の家庭裁判所へ相続放棄の申述をしなければなりません。
よく「相続人間で相続の放棄を約束した」との話を聞きますが、それでは相続放棄したことにはなりません。
次に、限定承認とは、債務のうち相続財産を超える部分の返済義務を引き継がない方法です。
プラスの財産とマイナスの財産があった場合に、プラスの財産の限度においてマイナスの財産も相続し、それ以上のマイナスの財産を相続しない方法です。
限定承認をする場合は、以下のような手続が必要となります。
①相続人全員が共同して行う必要があります。
②熟慮期間内に、「限定承認の申述審判申立書」を家庭裁判所に提出します。
③限定承認を選択した場合には、不動産などの値上がり益が精算されると考えるため、亡くなった人(被相続人)に譲渡益相当額の所得税が課税されることから、準確定申告が必要になります。
④相続人が複数の場合は、家庭裁判所により相続財産清算人が選任され、清算されます。
最後に、単純承認とは、相続財産と債務を無条件・無制限に全て引き継ぐ方法です。
熟慮期間内に相続放棄または限定承認の手続をとらない場合、自動的に単純承認となります。
また、この他に以下の場合には単純承認したことになります。
①相続人が、相続財産の全部又は一部を処分したとき
②相続人が、限定承認又は相続放棄をした後でも、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私的にこれを消費、又は悪意でこれを財産目録に記載しなかったとき
これらの場合には、たとえ相続する意思がなかったとしても、自動的に単純承認となりますので注意しましょう。
(2) 遺留分侵害請求
遺留分とは、相続に際して、一定範囲の相続人に対し、被相続人の財産のうち、一定の割合を最低限引き継ぐことを保障する制度を指します。
被相続人は、原則として、遺言や生前贈与によって、自由にその財産を動かすことができるのですが、遺留分はこれに対して一定の制限効果を持ちます。
ただし、遺留分は、放っておいても当然にもらえるというわけではなく、請求の意思表示をする必要があります。
この請求の意思表示を遺留分侵害額請求といます。
遺留分侵害額請求は、相続開始及び遺留分が侵害されていると知った日から1年以内に行使しなければなりません。
2 今後期限が設けられる相続手続
現時点では期限がありませんが、法改正により、令和6年4月1日から、相続登記が義務化されることになりました。
相続登記とは、相続人が被相続人から相続した不動産の名義を、被相続人から相続人へと変更する名義変更登記手続をいいます。
被相続人から相続した財産の中に不動産が含まれている場合には、相続登記をしなければなりません。
相続登記は、不動産の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。
このことは、遺言によって、不動産を譲り受けた場合も同様です。
また、令和6年4月1日以前に取得したことを知っている不動産については、令和9年3月31日までに相続登記をすることが必要です。
相続登記の義務化とその内容については、次のリンク先ページの解説もご参照ください。
3 期限のない相続手続
期限のない相続手続は、主に以下のとおりです。
・遺言書の検認手続
・遺産分割協議・調停・審判
・銀行の預金口座などの名義変更
これらの手続のうち、銀行の預金口座については、10年以上口座を使用していない場合には、その口座は休眠口座に入るので、この点には注意しておくべきでしょう。
(弁護士・畠山賢次)